中島
おっしゃるように、白熱灯というのは、フィラメントが燃えて発光しているわけですから、ある意味で火の光なんですね。火の光を明るくしようとすると、どうしても白っぽい光というより暑苦しい感じになる。白熱灯は、蛍光灯ほど白い光にはならず、最大限に明るくなっても、イメージ的に白くなっている感じかなという程度です。
逆に、ずっと照度を落として、キャンドルやろうそくと同じような明るさまで落としていったら、もともと火の光ですから、ろうそくと同じような光になります。例えばキャンドルで食事をしたり、あるいはキャンドルで雰囲気のあかりをとったりという生活習慣は、ヨーロッパに多くあります。日本にはそういう習慣がないからわからないですが、暗いですね。暗いけど、おっしゃるように全然寂しい感じはなく、むしろ豊かな雰囲気ですよね。
蛍光灯の白い光で暗いと、それはもう陰気です。ですから蛍光灯の白い光を住宅で使っていると、どんどんどんどん明るくしてしまうわけです。
それは昼間良くても夜の生活によくない。だからどこかでとめなくてはいけないのですが、残念ながらCO2の排出量の問題で、より蛍光灯を使いなさいと言われています。そういう単純で短絡的な指導がこれから行われるとなると、ちょっと怖いですよね。
もちろん、CO2削減のためには蛍光灯を白熱灯の代替にすることが一番簡単かもしれませんが、蛍光灯を幾ら暖かい光にして暗くしても、電球を暗くしたような効果は絶対に出ないんです。料理だってそうでしょう。外でおいしい味を一度たしなめたら、自分の家の食事でもあまり味を落としたくないですよね。
それと同じように、やはり蛍光灯というのは決しておいしい光じゃないんですよ。白熱灯みたいなおいしい光じゃない。しかし蛍光灯の光の味しかわからないと、感覚が鈍くなっていてしまう。今の日本人にはそれに近いような状況が起こっていると思います。
でも、日本人の味覚にしても、聴覚、視覚にしても、すばらしい感受性があります。それは潜在的にあるものなので、それを呼び起こしてもらうような何かきっかけみたいなものを、これから特に視覚に対して私たちがやっていかなければいけないのかなと思っています。私たちというか、照明の関係に携わっている人ですね。
真壁
今、中島さんがおっっしゃられたCO2の問題も、今日のニュースでも目標値を超えてしまっている。こういうことから考えると、蛍光灯への加速というのはかなり進みかねない。
中島
とまらないでしょうね。
真壁
その中で、全体の消費量を抑える、あるいはもう少し使わなくていいところをセーブするという発想のほうが、むしろ大事だと僕は思います。全体のあかりをもうちょっと抑えていくということですね。
中島
そういう発想は、ヨーロッパの人たちにあるんですよね。いくら蛍光灯の光が効率的にいいとか電球色がいいといっても、あの光の質に耐えられない人は、それなら今まで100ワットで使っていた電球を30ワット、40ワットにして、明るさを落としてでも白熱灯を使うというような考え方をしている人が、結構いるみたいです。私もそう思います。
150ルクスとか200ルクスなんていう、普通、住宅の夜の生活には考えられない明るさが今、日本にはあるわけです。それを30ルクスなり50ルクスに落とせば、白熱灯でも十分、CO2を削減できるわけですよね。しかも光の質を落とさないでいいわけですから。
真壁
おっしゃるとおりですね。それと同時に、40ルクスでも暮らし方のイマジネーションが広がるようなあかりを、やはり私たちが提案していかなきゃいけないことでしょう。
中島
そうですね。それで不快に思うような提案をしてしまっては、絶対に普及しませんから。
真壁
なるほどね。そうした基本的な照明の考え方というものが基盤にある、今回の建築家と照明家のコラボレーションだったなと思います。
さてここからは、これまでのシンポジウムとはちょっと異例なのですが、とにかく暗がりの居心地のよさというか、ぼんやりとした場所感というのを、中に入っていただいてぜひ体験していただこうと思っております。棚瀬さんも中島さんも僕らもおりますので、どんどん話しかけて、根掘り葉掘り聞いてみてください。では、棚瀬さん、中島さん、どうも今日はありがとうございました。(拍手)
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