真壁
梅林の家というのは、2005年かな。非常に小さな家なんだけれども、家全体が小さなスペースに分節されていて、14個の部屋になっている。それらがみんな、穴があいていたりしてつながっているんですよ。その一つ一つの部屋が、僕には光の箱に見えたんです。だから、みんな緩くつながっているわけですよね。今、住宅に求められるある種の質といいましょうか。何か明快な分節ではなく、緩くつながっていくような。今回のエキシビションでは外光は入ってこないけれども、それを人工光でやると棚瀬さんのイメージはこうなんだろうなと思いました。見事に体現されていますね。
建築家は比較的、人工光よりも自然光の中で、住宅の中のあかりという問題を考えようとしている節がありますね。梅林の家も、人工光というよりは自然光ですよね。
棚瀬
はい、完全に自然光です。
真壁
だから夜のシーンというよりは、日中の光箱(ひかりばこ)から次々に光が渡っていくという、音のように響き合っていくような家ですよね。だからそういう意味で、こういう人工のあかりの中で緩い連続性とか、ぼやっとした場所感をつくったということは、エポックになるだろうというふうに私は思いました。
伊藤
照明の原点はやはり自然光だと思います。今、多くは自然光が意識から離れてしまっています。もっと自然光のことを考えたほうがいいんじゃないかなというふうに思っています。昨今のCO2削減とか、そういうことももちろんありますが、本来の光の美しさみたいなものは、やはり自然光にはかなわない。
もちろん、人工光の魅力も当然あるわけですが、やはり自然光をよく知った上でどう人工光を使っていくかという、そういう意識というのはとても大事ですね。ですから梅林の家は、そういうことを考えられる空間だと思います。
真壁
そうですね。
伊藤
住宅の中でそういう場所をきちんとつくっていくということは、建築でもこれから非常に重要なことになっていくんじゃないかと思います。

真壁
私は実際に拝見していないのですが、長谷川豪さんという若い建築家の作品で、こういう屋根型の家のてっぺんの端部から小屋裏を伝わって、北側のダイニング、キッチンに光がサーッと流れてくる、というものがあります。そういうふうに、自然光をダイナミックに住宅の中に取り込もうという動きはあるが、夜の場面になると、光の壁というような演出をしていて、そこは短絡的だなというふうに思ったんです。何かもう少し、はかなさというのか、住宅の中には暗順応的な世界がまだまだ潜在している。単に行灯(あんどん)とか省エネというくくりではなく、豊かさとしてまだそういう考えるべき部分があるだろうと思っています。
それともう一つ、建築家の意識の中にあるものは、家族の距離という問題なんですね。つまり、家族がどういう距離感を持ったらいいのかということです。これも住宅の設計の中で重要なテーマなんですね。先程の梅林の家でも、おばあちゃんの部屋に子供たちが丸い穴をくぐって行けるとか。完全に個室として隔絶するのではなく、かといってむやみに踏み込むのでもないという、関係の距離というのが、すごく重要なモチーフになっていて、それをこのエキシビションでもここで試みた。
恐らく棚瀬さんの中に潜在していた主題だと思うのですが、どうでしょう。
棚瀬
まさにおっしゃったようなことです。全部個室であっても、結局やっぱり、集まって住むわけですから。それでも個別の快適さはすごく重要だと思っています。だから今回は光でしたけど、音もあるかなという感じです(笑)。