真壁
僕が新しく発見したのは、本当に物から落ちている影。つまり、テーブルとかいすの下のくっきりした影と、それからこのひょうたんの形をしたり、ベッドに落ちているぼうっととした影。これは恐らく、漢字で書くと違うんでしょうけれども。陰と影ということなのか。

この二つのコントラストというか、緩いめり張りのない対比というのは、すごく気持ちが落ちつきますね。要するに、先程冒頭に申し上げたモダニズムの中で、どんどん平滑なあかりとか均質なあかりを指向してきた。それが今、たったこれだけのあかりの中で非常に心が安まる、あるいは豊かさが体現できるというのは、驚きです。ひょうたん形の影だけではなく、物の下に落ちた陰も非常に意味を持っているんだなと実感しています。
棚瀬さんのこの家具のデザインも、なかなか秀逸だと私は思うのですが。伊藤さん、どうでしょう。
伊藤
確かに真壁さんがおっしゃったように、影の質がいろいろあるということが今回はとてもおもしろいですね。普通、影というと暗いものとひとまとめに思ってしまうのですが、ぼやっとしたやわらかい影と、非常にシャープな影とが一つの空間の中に混在している。そのめり張りがすごく空間に緊張感を与える。これは今までの照明空間ではあまりなかったことですね。
真壁
照明家から見て、この空間の中にある常識を超えたものとは何でしょうか。
伊藤
あかりによってできている影もあるし、意図的につくった影もここにあるわけですね。その二つが混在しているということがおもしろいんじゃないでしょうか。
真壁
それも、当初から影というものが計算の中に入っているということでしょうか。
伊藤
中島さんがどういうふうにお考えになっていたかわからないですけれども。でも結構、照明って、やってみて発見が後から出てくるということが多いですよね。
真壁
なるほどね。では中島さんにそのあたりの話を伺いたいと思います。棚瀬さんの2007年のプロポーザル案を見て、どんなふうに解けそうだと思いましたか。
中島
まず最初にプロポーザルを見て感じたのは、ちょっと避けようかなと(笑)。
真壁
このユニットをね(笑)。

中島
すごく難しい。棚瀬さんが言われたのは、いわゆる影のパーティションですね。影で間仕切りをつくって、その影の中に入ってきた人は消えてしまう。だけど向こうの、あかりのあるところは見える。そういう考え方を当初おっしゃっていたので、それは無理だろうと思いました。
でも、影の中に入った人が消えてしまうというところまでいかなければ、少しは可能性があるかなと思って、挑戦させていただきました。
真壁
そこで成算はあったんですか。
中島
いや、ありませんね(笑)。自分自身のイメージはあるけれども、最終的に棚瀬さんが、できた結果をどういうふうに思っていただけるかというのは、わからなかったものですから。
ただ、今回使用した照明器具は、ピンスポット――レンズのついた、いわゆるプロジェクターのような機能を持った器具なんです。実はこの器具は、私がこの照明の世界に入ったとき、もう40年前になりますが、そのころに使った器具なんですね。多分同じ器具だと思うのですが、いまだにこういう器具があるということ自体が信じられない。もう時代がすごく変わっているのに40年前の器具がいまだにある。ピンスポットというのは、ほかに、この機種ではないものもあるのですが、この機種そのものが私が40年前に使用した器具なんです。
この器具は、当時を思い出すと、かなりきれいなエッジといいますか、光のパターンが出るんですね。それで今回、ちょっと使えるかなと思って調整してみたわけです。これはレンズつきの器具で、ランプとレンズの間にゴボというマスクを入れるといろんなパターンができるものです。今回はここにあるような影をどう出すかということでこの器具を使いました。
合わせて36台のピンスポットを使っているのですが、実際はダブルで使っています。まず、四角く切り取った全く影のない器具18台の光をつなぎ合わせて長方形の大きな光をつくり、それに重ね合わせるように、影のある器具を同じように18台設置しています。それをプログラム調光で、時間をかけて光を変えることによって、とてもおもしろい光の効果が出せたわけです。しかし、このマスキングで、棚瀬さんがおっしゃっているような影をつくるのがとても難しかったですね。
どういうことかというと、レンズとランプの間にゴボを入れると、レンズを通しますから、影の形は逆さまに出てきてしまうんですね。そのことはわかっていてちゃんと頭の中でイメージしていたのですが、結局変な影の形になってしまって、当日の設営のときに再度やり直した。それがすごく大変だったなという感じを受けています。