中島
今回、こういう光と影のパターンをいろいろ見ていただく中で、不思議な現象があります。この光の中に入って歩きながら、自分の影を見てもらいたい。そうすると、自分の影が消えてしまうところがあるんです。全く消えてしまうというところが。少し歩くとまた影が出る。要するに、ピンスポットの光は切られているので、四角い光のつなぎ目に人が立っても、光は人に当たらない。だから影も出ないということになるのです。そういう効果もちょっと体感してもらうとおもしろいかなと思います。普通、光があれば影が消えることはないですよね。もちろん、影の中では影はあまりできませんけれど、光の中で自分の影が消えるというのは、すごくおもしろいことだと思います。

また、プログラム調光で明るさをいろいろ変えています。器具内に入っているのはいわゆるハロゲン電球なのですが、電球は調光で暗くするとだんだん赤みを増していきます。ここに棚瀬さんがつくられている家具の色は、皆同じですよね。同じ色なんですが、調光されているところ、少し陰っているところを見ると、色がだんだん、赤茶けたような感じの色になってくる。
それから、あるシーンでは、電球の照度をかなり落としているので光の色は赤みを帯びているはずなのに、逆に月明かりのような青白っぽい光に感じる瞬間があります。
もう一つは、突然空間の全般照度をゼロにするのですが、あるところだけに、本当にわずかな光を残しています。ゼロにしたときにはほとんど目が見えなくなるのですが、時間が経ってくると、その少しだけ光のあるところがだんだん見えてきます。これは暗順応と言いますが、目が明るさをコントロールしている。そういうところも体験していただけるとおもしろいかなとに思います。
細かいところでは、もっとこうしたいという欲もあるのですが、この時点では一応棚瀬さんもオーケーが出たので(笑)、いいかなと思っています。
真壁
今回の「くらしとあかり」エキシビションの中の一つのキーワードに、暗順応というのがありますね。パーっと明るいのではなくて、むしろ私たちは暗さの中に豊かさが、あるいは暗さの中に安らぎがあるという、そういう仮説をずっと展開してきているように思います。前回の藤本壮介さんの提案は、ある意味ではハイテクのほうですよね。今回は、ローテクとは言わないけれども、オールドテックですよね(笑)。
中島
そうですね、40年前の光ですからね。
真壁
その対比が非常におもしろいなと思います。いま建築の中の、特に住宅の中で建築家がトライしているテーマというのは幾つかあるのですが、ライフスタイルから建築というのはどうつくるかだとか、あるいは風景、あるいは都市との関わりをどういうふうに建築に取り入れるか、住宅に取り入れるかという問題が多々あります。
その中で重要なテーマの一つに、開口部、窓という主題があります。今日のエキシビションを見ると、あかりというものがまだまだやり切れていない、手つかずの分野だなという気がすごくするんですね。住宅におけるあかりとしては、例えば妹島事務所で担当された梅林の家では、棚瀬さんはあかりをどのように考えたのですか。
棚瀬
あれも、つくってみてすごい発見というのはありました。あの家は、すごく薄い壁で仕切っています。開口部がその部屋に対していろいろなところから入ってくるから、部屋毎に光の入り方が違うんです。また、開口部の大きさも違いますから、部屋毎の照度も全然違う。それが隣り合っている。

例えば、ベッドルームに1個穴が開いていて、その隣にダイニングルームがあるのですが、そのダイニングルームはダブルハイトの天井高で、上から光を入れたんです。その光はすごく明るいものだから、ベッドルームからその開口を見ると本当に絵みたいな感じ。距離感が全然ないような感じになりました。
本当にこれはおもしろいなと思いました。それが例えば同じ照度だったりすると、多分、全然見え方が違って、もっと生々しい感じになってしまったと思います。ところが照度が全然違って、開口が薄くて、本当に切り取られているような感じだと、何か二次元の絵みたいで、見えているのだけれど気にならない。すごく変わった距離感がある。それはおもしろかったですね。
あれも多分、照明というかあかりの効果がすごくあったのだと思いますが、まだまだいろいろあるんじゃないかと思います。