事務局
皆さんこんばんは。今日は「くらしとあかり」第4回エキシビションのシンポジウムにお集まりいただきましてありがとうございます。第4回目の本日は、建築家の藤本壮介さん、照明家の石田聖次さんをお迎えして、お話をしていただきます。では、藤本さん、石田さん、この企画のプロデュースをしていただいてます真壁さん、よろしくお願いします。(拍手)
真壁
では、「くらしとあかり」第4回シンポジウムを始めたいと思います。「くらしとあかり」エキシビションは建築家と照明家がユニットを組んで、提案していこう、考えていこうというエキシビションです。つまり、あかりそのもののオブジェクト、あかりだけのラジカルな提案ではなく、くらしを考えたエキシビションにしていこうということが前提にあります。ですから、あかりそのものの提案、提言としては物足りないかもしれない。このキネティックに光っているあかりは、ああ、こんな日常があったらいいな、こんなくらしが生活の中に取り込めたらいいな、というような質の提示であり、あかりそのものの驚きというのはそうないかもしれない。ただ、このシンポジウムの間に、ああ、居心地がいいなという実感が伴えば、ねらいとしては大成功だろうと思います。
入り口のイントロダクションに僕は書いたんですが、照らすだけのあかりじゃないもの、あるいは映し出すだけのあかりじゃないものが、この「くらしとあかり」、これからの展望の中で必要なんじゃないだろうか。つまり、じっとたたずんでいても楽なあかり。第1回エキシビションのトラフがやった蓄光のようなものからずっと引き続いてやっているのですが、今回は、私たちがあかりと一体になれるような状況をつくりたいなと思ってのものです。

藤本さんが、「液体のようなあかり」というキーワードを出してくださって、それを石田さんがいろんな試行錯誤をして、コラボレーションによってこの場面がつくられました。ですから、今日は存分に藤本さんと石田さんのこうした「液体のようなあかり」の中での気持ちの楽さ加減を伺いながら、戯れていただきたいと思います。
ではまず、藤本さんのファーストアイデア、「液体のようなあかり」に至るお話をしていただけますか。
藤本
藤本です。今は座席がセットされていますが、実際のエキシビションでは自由に動き回ったり、この光の中に入っていけるような感じになっています。入っていくと、その中で浮遊しているというか、泳いでいるというか、そんな感じになるんです。
もともと僕が「液体」と言ったときには、実際どういうものをつくるかということは全く考えていなかったんですね。僕自身は建築家ですけれども、あんまり場面を演出するようなものは得意ではないんです。むしろ僕らの生活している場所が本当はどんな場所なんだろう、ということまでさかのぼって提案したいという思いがあります。
僕は、いつも空間を建築家として扱っているんですけども、空間というのは何となく粘り気があるというか、人がそこをかき分けて生きている。どんよりした粘っこいところと、割とさらさら流れているところと、そういうものによって僕らの生活の居心地のいい場所、動きが生まれる場所が変わってくるんじゃないかという印象を常々持っていました。ですので、光が空間の中に入ってくるときにも、そういう空間のイメージは何らかの形で実現したいという思いが最初にありました。

「空間が粘っこい」と言ったときに、その中に照明器具を置くというような意識はあまりなくて、むしろ空間自体が発光しているというか、ぼんやり輝いているような状態が、まずは頭の中にあったんです。空気の粒子が一個一個光っているような、そんな場所をつくれたらおもしろいなと。その中に分け入っていって、そこで暮らすのか何なのかわからないけれども、そんなあかりをつくることができたら、結構おもしろいんじゃないかなと、最初はそんなイメージでしたね。
真壁
今回はワークショップというスタイルをとって、学生の有志の方たちにも入っていただいてつくり上げていきました。彼らもこの中に入っていじりながら、いろんなイメージが出てきたんじゃないかなと思います。藤本さんの空間のイメージも共に共有しながら、こういう形に至った。
石田さんは、藤本さんのプリミティブな最初のイメージを、照明家の常識としてどういうふうにとらえましたか。
石田
とんでもないことを言う人だな、というのが本音ではありましたね。ジェルで固めるとか、ミスト空間で何か光を拾うものをつくってあげるのが正解なのかなと、最初は考えていました。ただ、お話していると、イメージは光そのものの存在のあり方だけなので、別に手法にこだわる必要はなく、純粋に光を点在させたいということでした。ではファイバーはどうかという話の中から、このように展開していきました。
今回一緒にやってみて特に思ったのは、藤本さんは何でも楽しみますね、おもしろがって。こんなのがあるんですよと言ったら、すぐ飛びついてきて、それをいじくって、また次のところに興味を持つ。飽きっぽいわけじゃないです。ただ、すごく興味を持って、楽しんで物事を考えていく方なので、僕もすごく楽しめました。
真壁
実はいま建築が抱えているテーマでもある、つまり建築の生み出し方、あるいは建築のあり方というのは計画論的に決めつけられるわけではなく、ここの場の組み立て方は今の建築に対するアプローチと非常に近しいものがあって、僕はそれがものすごくさわやかだなという気がしているんです。明快なコンセプトをぎちぎちに立てて、そこからスタディーしていくというのではなく、「あっ、それおもしろいね」「これおもしろいね」と。でも、自分の中心にある感覚は凛としてあって、一気に決めていく。何かそんなふうに思うんですが。
藤本
そうですね。僕もこれを僕がデザインしたという意識は全くないです。そう言うと非常に無責任に聞こえるかもしれませんが、真壁さん、石田さん、皆さんとやりとりしている中で、だんだん形になっていった感じがあったんですね。ただ、ぼんやりしていて何かが生まれてくるわけではなくて、僕は僕なりにイメージを言葉にして、こんな感じ、あんな感じと無責任に言う。そうすると、また何かが返ってくる。
僕が、途中で言った言葉の記憶は定かではないけれども、最初のほうでは、こういう点光源みたいなものが非常に暗く光っていて、暗過ぎて点は見えないんだけども、すごくたくさん集まっていると、ぼんやり領域が光っているみたいな、そんなことはできないかというようなことを言っていた気がするんです。そのときには、点光源は見えないほうがいいと思っていたんだけども、その後、石田さんがファイバーの実物を持ってきて、みんなで遊んでいるうちに……
真壁
そうですね。あそこから局面が変わりましたね。
藤本
「これ、いいな」と(笑)。このファイバーは端部が2〜3センチ皮膜がむかれています。最初いじっていたのは5センチぐらいむかれていました。そうすると、ただの点ではなくて、ちょっと光が流れているような感じになる。それが動くと、生き物が意思を持って動いているような感じになって非常におもしろいなと。
そこから、もう一回考えてみると、こういう生き物みたいな点光源が寄り集まっている場所というのは、最初言っていたイメージの液体とは少し違うかもしれないけれども、非常におもしろいんじゃないかと。そこからまた動いていきましたね。
真壁
「液体のようなあかり」というのは、いろんな解釈が可能だと思うけれども、自らがその中に封入されるというか、その中に飛び込んでいくというのが大前提だと思う。それがどろどろしているか、ねばねばしているかはともかく、あかりと自分の関係というのが、まずは一体化できるか、一緒になれるかというのが大きな主題だったと思う。
藤本
そうですね。だから、光の中に入っていったときに、インタラクティブにというか、こっちが入ったことで光の場が少し変わったり、これは直接的に動いていますけれども、そういうことが起こってきたときに、やっぱりおもしろくなってきたなと感じました。途中の段階では、例えばセンサーみたいなものを使って、人の動きを察知して変化するということも、技術的にはもちろんできると思うんですけども、それだとちょっとおもしろくないという話もあったと思うんです。
でももう少しダイレクトにというか、非常にプリミティブにインタラクティブな関係が、こうやって遊べちゃう。しかしこのファイバーの場合は、動きがあまり予想できなくて勝手に動いている。
真壁
意のままにならない。
藤本
ええ。今も結構邪魔くさいんですけどね。(笑)だけど何かまとわりついてくる感じがある。そういうところで、ほどよい人間とあかりの接点、距離感ができてきたかなという感じがしますね。でも、ほとんど偶然に近いものはありましたね。