松下
本当はスタートですね。一度これをつくってみたら、次はこうしたい、ああしたいというのが出てきて、できれば3カ月ぐらいいろんな習作をしてみたいと思いました。照明のプロの方もたくさんいらっしゃっているので、なぜ5000ケルビンかという話をまずさせていただくと、布を選ぶことから始めたんですね。こんなに幅広い布を選ぼうとすると、やはり予算が大きくかかる。予算の中で、安くてもきれいに発光する布ってあるはずだと思って布地屋さんをかけ回って探し出して、そこからこのエキシビションが始まったようなものです。
たまたますばらしい生地に出会って、皆さんも歩くとおわかりいただけると思うんですけれども、今回は、五感の一つでもある触るという皮膚感覚もとても重要だと思ったんです。少し滑って、なおかつ、艶もあって、感じた足の裏の感覚を脳に運ぶ。そういった触覚的なところも必要だろうと思いますし、布が光を通したときにどう見えるのかということからまず、実験を始めました。
最初は小さな布を家具にかけて、その家具がどんな色を反映してくれるのか、実験しながら光を選んでいきました。最近はエコロジー、電球をやめて蛍光灯にしようと、そういったニュースが皆さんの耳にも届いていると思います。でも、日本はもともと蛍光灯文化があって、今さら蛍光灯を使いましょうと言っても皆さんなかなかピンと来ないんですよね。
電球のかわりに蛍光灯を使うとなると、蛍光灯の電球色というのがありますよね。何となく、電球色でないと電球の代わりにならないんじゃないかと思われているようです。でも、この布を通したときに一番きれいだったのは、2800ケルビンでもない、3500ケルビンでもない、6500ケルビンでもない、5000ケルビンの光でした。そして、それがきれいに反映することによって、この布のよさが浮かび上がってきました。家具を配置しないで決めていくわけですから、何本いるのかもわからずに、先ほどの布の予算と一緒で蛍光灯が何百本もいるだろうなと思ったんですが、幸いダイア蛍光さんのご協力をいただきました。床に置いているのは裸のシームレスランプ5000ケルビンなんですけれども、家具の上に置くということで少し熱をケアしなければいけませんので、乳白カバーつきのものになりました。そちらには乳白カバーを通したときに5000ケルビンに見えるように少し色温度の高いランプを入れました。
そのような細かい調整しながら進めてまいりました。先ほどの写真にもあったように、上から照射された自然光を反射した空間が私たちの普段の目の中にあるとすると、これは完全に下からにじみ出る光。そして、この空間の中はコントラストをなくしてグラデーションだけで演出をしたいと思いました。ヨコミゾさんが生活のシーンをレイアウトをしてくださって、その後に私が光を配置して大きな1枚の布をかけた状態です。小物をいろいろセレクトしてテーブルの上に置き、その小物の色を透過することによってヨコミゾさんが希望していた、「そこで食事をしていたんじゃないか」「ここで本を読んでいるんじゃないか」という、くらしの雰囲気というのを皆さんのイマジネーションの中で感じられる空間になったらいいなと思いました。
でも、本当難しかったですね。まず布が難しかったということが一つと、あと展示されている家具が商品であるということ。熱で傷めないようにとか劣化しないようにとか、そういったケアをしながらのエキシビションでした。先ほどヨコミゾさんがおっしゃられたように、これがスタートのような気がします。もっと可能性がいろいろあるなということに気づきました。ヨコミゾさんも、もっと「色温度を変えたらどうか」とか、発想が広がるねとおっしゃってくださって、私もできればさらにもっといろんな習作をやってみたいと感じているところです。
真壁
私も昨日かなり長時間ここにいたんですけれども、非常に癒されるというか、浄化されましたね。さっきヨコミゾさんが私に「くらし」の定義を求めたとおっしゃったんだけれども、「くらし」は定義しても始まらない。「くらし」というのは各人固有の内なるものだと思うんですね。しかしこういうエキシビションは、見にきた人が「私とは関係ない」と言うか、言わないかが最大の焦点であって、少なくとも僕はここに長くいられた、私が希求する「くらし」と「あかり」、そんな関係を接点として感じたということが大切だと思いましたね。

そして、この中で実は、いろんなデリケートなあかりの実験をしているわけだけれども、やっぱり居心地というか、居場所のいいところをつくるということですね。どうこの場所とつき合ったらいいのかなと、ちょっと考えてしまうような場所があったり、ここのくぼみは自分にとってたまらないというような場所とか、いろいろあったのではなかろうかと思うんですね。やはり先ほど出たように、ここがこれからのスタディーの宝庫だという気がすごくしています。例えばさっき言いましたように、「くらし」と「あかり」は分離されているものではなく、非常に一体化しているがために、まだまだこれから掘り下げていく場面がいっぱいあるんだろうなと思うんですね。少し抽象的な話になりましたけれども。
あと今回このエキシビションを私と一緒に推進してくださっている伊藤さんに、4階をごらんになってどんなインスピレーションを受けられたかをお願いします。
伊藤
実行委員の一人であります照明デザイナーの伊藤と申します。今日は、ヨコミゾさん、松下さん、この「くらしとあかり」のテーマに沿って非常にいいプレゼンテーションをありがとうございます。先ほど松下さんもおっしゃっていましたけれども、自然光を大切にしていきたいと。これは「くらしとあかり」の大きなテーマになっています。我々はやはり自然光の良さを忘れてしまっている。それをもっと生かしながら人工の光を使っていきたいということでこういう企画をやっているわけです。その中で本当の光の良さがわかってくるんじゃないかなということですね。
先ほどよりいろいろと話が出ていましたけれども、今回、この大きな布をつくるということがとても大変でした。予算も含め、ショールームの使い方とか、そういうことも含めて実行委員としてはちょっと冷や冷やした部分があったんですけれども、皆さん本当に一生懸命やって下さって、松下さんもいい布を発見して下さって、とてもいいエキシビションになったんじゃないかと思っています。
私の感想ですけれども、普通照明デザイナーとして考えれば、下に光を置くということは、下から光が上に向かって方向性を持って飛んでいくような感覚を常に覚えるわけです。しかし、こういうふうに白い布をふわっとかけた状態で見てみると、光が下に漂っているという感じがあるんですね。これは私としても、とてもおもしろい発見だったなと感じています。それが気持ちの上で非常にやわらかな光に囲まれたというか、浸っているというか、そういう非常にやさしい状態に入れるという、とても大きな発見でした。
さっき松下さんがおっしゃっていましたけれども、布の素材と光の関係、これは意外と見過ごされがちで、やはり照明は光だけで成り立つものでは決してなくて、いかに素材とのマッチング、もう少し専門的に言うと光源のスペクトルと素材がいかにうまく反応し合って空間をつくっていくかということが言えるわけです。今回は、とても新鮮な色温度の高いあかりで、しかもやわらかい空間というものができた、これはとても驚きでした。