ヨコミゾ
最初、真壁さんから「くらしとあかり」と言われたときに、その投げかけに対して、どう返そうかなとかなり迷ったというか、考えさせられたんです。「くらし」と「あかり」がどう寄り添うかというようなお話を、真壁さんがされてましたけど、そもそも「くらし」って何だという突っ込みをしたかったんです。でも、それが逆にするりとかわされてしまって、そこから含めて提案してくださいみたいな言われ方を確かされたんだと思います。

今回、「くらし」も「あかり」も平仮名で書かれているんですけれども、先ほどその意図を伺ったところ、漢字で書くといろいろなイメージや、何か型にはまったコンベンショナルな記号が付着してしまうからだとおっしゃるんですね。だから、平仮名にすることで、できるだけにおいや癖やイメージを払拭したいんだというようなお話をされていました。このエキシビションは、本来なら今いるこの場所(遠藤照明青山ショールーム5階)で構成するというのが条件だったんですけれども、ここでくらしを思わせるしつらえをやっても、ただの学芸会になってしまう気がしたんですよ。ここの空間、くらしと全く無関係でしょう。だから、ここに家具や何か持ち込んでも全然生き生きとした生活のシーンなんて、つくろうとすればするほどむなしくなってしまうと思ったんですね。
それでどうしようかなと思っていたら、遠藤照明さんの家具のショールームがここの一つ下の階、4階にあったんですね。そこにはくらしのシーンがいっぱいつくってあるわけですよ。ダイニングテーブルがあったりソファーがあったりラブチェアが置いてあったりして。これを使わない手はないだろうということで、無理にお願いして4階を使わせていただくことにしたわけです。最後の最後までそれについてはもめて、ほかの回のエキシビションでは1週間展示期間がありましたけれども、私たちには通常のショールーム機能が損なわれるということで、3日間ということで何とか許可をもらえたという裏話があります。
4階につくられているシーンというのは、こんな家具があったらいいなと購買意欲をかきたてる演出がされてはいるんですけれども、そこには人間臭さもないし、生活の薫りもない。ショールームですから当然ですよね。虚勢された本当に記号としての生活だけが並んでいたんですね。そのクールさに結構惹かれたわけです。そこにあるコンベンショナルな、こういう空間にはシャンデリア、こういう空間にはスタンドというような、白熱系の色温度の低いものを中心にした、演出された生活のイメージに対して逆のことをやってやろうというところから始まったんです。
まずあかりを全部捨てて、真っ暗闇にしようということで天井からぶら下がっていたブラケットやペンダントを全部外しました。だから会場に行っていただければわかりますけど、照明器具は一切天井からぶら下がっていません。あったとしても消してあります。外した照明器具を床に置いて下から照らそうと最初考えました。でもそれは、ただ上にあったものが下に移った、位置が変わった、あるいは光の方向が変わっただけで、ちっとも批判的になっていない。「くらし」イコール色温度の低さというふうなイメージすら覆してみたいと思いまして、今回は5000ケルビンで統一するということを松下さんとご相談させていただきながらやりました。
家具は普通に食卓を囲むように、あるいはテレビがあればそれを眺めるように、人がそこにいてもおかしくないようなレイアウトがされてはいるんですけれども、決して見たことがない不思議な光の状態ができたらなと思って考えました。
会場を覆っているあの布は実は1枚です。30m×50mぐらいの全く1枚の布です。巨大な布です。これは少しこじつけがましいんですけれども、天空照度というときの天空に相当するものかなと思うんです。というのは、光を拡散させてくれるための空気のような存在。やや概念的過ぎるかもしれませんがね。