遠藤照明

「くらしとあかり」プロジェクト

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第1回:トラフ×村角千亜希 2007年11月 第2回:井上搖子×角舘政英 2008年2月 第3回:ヨコミゾマコト×松下美紀 2008年5月 第4回:藤本壮介×石田聖次 2008年8月 第5回:棚瀬純孝×中島龍興 2008年11月 第6回:乾久美子×伊藤達男 2009年2月 石田聖次 伊藤達男 角舘政英 中島龍興 松下美紀 村角千亜季 乾久美子 井上搖子 棚瀬純孝 トラフ 藤本壮介 ヨコミゾマコト

真壁
 恐らく、こういう場面も含めて住宅の照明のあり方でも、建築家と照明家のそこの一線は、これからまだまだ越えていかなければいけない。何か新しい合意点、あるいは実験がもっと具体的に出てくる必要があると思います。


伊藤
 確かに、コミュニケーションに少し難があったというのは思っています。ただ、乾さんはきっと、どこまで照明がうまく調整できるのかということをすごく心配されていたと思うのですが、私はそれほど心配していなかった。とにかく地道にやれば床と合わせられると思っていた。恐らくそこが一番違っていたんだと思います。


真壁
 やはり職能が違うと見えづらいこともあるのでしょうね。


伊藤
 私どもは仕事でもそんなことばかりやっているものですから、これは何とかなると思っていたのですが、それを乾さんがすごく心配されていたのは理解できます。ただ、それをどうやって説明すればよいのかはよくわからない。


真壁
 要するに、違う職能がそこにジョイントするときに、いくつかの初歩的な課題がまだそこにあるということですね。


 この「くらしとあかり」エキシビションでは、建築家と照明家のコラボレーションというのをスローガンとして掲げてきましたけれども、毎回違う場面でのコミュニケーションとかイメージの伝達というのが、課題としてあったように思います。最終的にはやはり実験しかないということが、今回よくわかりました。ロジカルな説明も一方で背景にはあるのですが、実験を通して、それをセンシティブに感覚としてどう理解し合えるか。


 ただ、実際の設計の現場の中では実験なんて悠長なことはなかなかできない。ヨーガンレールのときは何回も実験できたのですか。



 ヨーガンレールのときも、やはりメーカーのシミュレーションルームを借りて実験をやらさせていただきました。シミュレーションというのは絶対に必要です。例えばファサードで光の状況を見る場合などは、原寸モックアップのシミュレーションなしでつくることはあり得ません。なぜなら、コンピューターのシミュレーションなどでは効果が100%わからないからです。


 光の効果は、光源の情報と受光面のマテリアルの情報の両方が要ります。しかし、マテリアルの情報はまだまだデータ化されていません。塗料のちょっとした色合いやミクロ単位での肌理など全然データ化されていないわけですから、コンピューターシミュレーションはまだまだ使いものになりません。ですから、いまのところは、物理的につくって見る以外に手がないのです。もちろん、いくらシミュレーションの精度が上がったとしても、画面で見る限りよくわからない、という問題もあるかと思いますが。


真壁
 だからこそ、建築では10分の1、あるいは原寸大の模型をつくるわけですけれども、もっとその先に、こういうシミュレーションなりプラクティスがあればと、しみじみ思います。特に明るさとか暗さに関する検証は、デザインの上で重要ですよね。



 そうですね。人工照明の世界に物申すようですが、設計事務所ですから、日本で手に入る照明器具のカタログをかなりな範囲で集めていて、設計中に照明器具を探すとなるとそれらのカタログを網羅的に調査します。そのときにいつも不思議なのが、どの会社も結局、同じことを言っているということです。どのカタログにも環境工学的な情報しか掲載されていなくて、さらにその先のアイデアがみえてこない。


 いわゆる教科書通りの照明の説明ばかりなのです。一番、知りたいのは、逸脱したいといったときに何かバックアップする技術はあるのかというとなのですが、なにか、そうした情報がカタログに掲載されていてほしいです。時々、そうしたマニアックな情報がカタログに掲載されているのを見つけるのですが、そういうときは興奮します。しかし、それもわずかです。いずれにせよ、結局は自分で実験しかないと思うのですが、実験をするときはそのときで、もう少しスムーズに会話する方法をみつけなくてはならないような気持ちです。


真壁
 実験の目標ですね。



 そうですね。実験の目標が何かということすら会話できない(笑)。


真壁
 共有化できない。



 そうです。その状況がもう少し変わるといいなとは思います。それは本当に難しいと今回思いました。


真壁
 伊藤さんとも常々お話するのですが、こういうあかり、あるいは暗さということに対するボキャブラリーが非常に少ないわけです。これは何とかしていく必要があるなと思います。要するにニュアンスが理解し得ない、共有化できないわけですよね。伊藤さん、今回の建築家とのコラボレーションの中で、概念とかイメージとか語彙の違いは障害になりましたか。


伊藤
 建築家がそういうことにいら立ちを感じているのは何となくわかります。ただ照明家の立場からすると、もちろんコミュニケーションのための語彙は必要ですが、その前の段階で、光をきちんとコントロールできる状況にしたいわけです。


 要するに、どうしてもカタログから我慢して選ばなければいけないことがすごく多くて、これはどのメーカーさんにも言えることですが、光のつくり方のコンセプトがあまりないですよね。


 逆に、コンセプトがあり過ぎるとなかなか自由に使えないということも一方ではあるのですが、恐らく、今はどっちつかずなのだと思います。その辺りが何とかならないかなというのは常日ごろ思っています。


真壁
 ごく一般的なスポットを使ってこういう効果を生み出し得るということすら、カタログからは少なくとも暗示されてないですよね(笑)。ですからこのエキシビションも、そういうきっかけの一つになればなと思います。


 「くらしとあかり」という6回のエキシビションを通して、技術的なことも含めて、建築家がもう少し光を自在に使えるような局面になっていけばと思います。だからこのイメージが乾さん単独のものではないと、こういうようなことであります。



 建築をデザインする側としていつも思うのですが、照明のカタログを見ていても、素材として見ていいのか、パッケージ化された商品として見ていいのかよくわからなくなります。


 私たちのような建築家は素材を探しています。もちろんパッケージ化されたものが必要な市場はあるので、それはそれでわかるのですが、ある一定の割合で、光を素材として求めている人はいるわけですから、そういう意味で、もうすこしプロユースというかマニア向けというか、ちょっと偏っていて面白いカタログ作りもしていただけたらいいなと思います。